総合診療医という選択

総合診療医という選択

Voice 総合診療医のリアル

Generalist 02

どんな場所でも、
どんな年齢でも、
たしかに診る。

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川崎市立多摩病院 
家庭医のための小児フェロー / 総合診療科 医師 
多摩ファミリークリニック 医師(家庭医療専門医)

町野 亜古

それは患者のためなのか?で それは 患者のためなのか?で なりたい医師を定めるもともと地域で家族ごと何でも相談に乗って診察している祖父が私の医師像でした。学生でこんな風に診療をするためには何科で学べばいいのだろうと思っていた時、留学先のイギリスで家庭医(総合診療医)のクリニックを見学させてもらう機会がありました。そのときに出会った先生に言われた一言で、やっぱりこれだなとピンときたんです。こういう医師になりたいんだって。

日本では病院を受診したら、まず検査をして、忙しい外来の中で短い問診があり、検査結果を説明して、「はい大丈夫です。次何カ月後に」と診察するやりかたがまだあります。一方、イギリスの家庭医のところでは、「久しぶり先生」とか言いながら来た患者さんと話し、身体所見を取って、「じゃあまた次来てね」と帰したんです。なんの検査もなく。すごく驚いてなぜ検査をしないのかと質問したら「なぜあなたはその検査をしたいの?それはあなたのため、患者さんのため?」と問われたんです。それでハッとしました。医師が病気の経過に安心したいがための検査をすることもあるなと。病院やクリニックそれぞれの役割があるので、網羅的な検査も時には必要になりますが、なぜ必要な検査なのか、本当に必要な検査なのかと、検査の意味も考えるようになりました。「患者さんのための検査じゃなかったら要らないよ」の一言に、自分もそういうふうに診察できる人になりたいと思いました。それが総合診療を目指したきっかけです。

患者が帰った後も、振り返り、学び、背景まで思いをめぐらす 患者が帰った後も、 振り返り、学び、 背景まで思いをめぐらす まず大前提として、総合診療医は優しいやぶ医者じゃいけないんです。的確な診断、治療をした上で家族や地域を診たり、継続性をもって診られたり、予防までできたり。ですから外来で気になった患者さんのことは、診断が正しいか、治療方針は正しいかと、最新の治療をもう一度調べ直します。自分に知識あっても、もう一度です。総合診療医をやりつつも、小児のフェローをするという意味でも、どにかく診療の質を高めることを大事にしています。

その後いったん引くんですね。「総合診療医は広角レンズだ」なんて言われるんですが、カメラのレンズのようにどんどん引いていくんです。患者さんの会社のこと、家族のことを考えてみたり、地域のことを考えたりと。それで診たときにカルテ見ながら、「この人の家族心配してるのかな?」とか、「この家族の中のヘルスエキスパート、健康の要は誰なのかな?」と考える。そういったふうに背景を考えて、次の外来で聞くことを振り返りながら勉強しています。

病を見逃さないよう、五感だけでなく 病を見逃さないよう、五感だけでなく シックスセンスも磨く身体所見、結構マニアなんですよね。患者さんが診察室のドアを開ける瞬間から歩き方などを——シックスセンスだと私は思うんですが——何で来たのかな、重症じゃないかなと、パッと感じてるんですよね。その後、五感をフル活用するんです。咳の音も聞くし、触って触感や温度、時には臭いも感じるようにします。問診も漫然と聞くのではなく,診断に結びつく問診を心掛けるようにしています。最終的には検査しますが、診断学は医者の基礎体力のような大事なスキルの一つで、私はそれを心掛けて診察しています。

この普段からの習慣がどのように役立つかというと、例えば近くの病院で頭痛を診られてから私のところに受診された患者さんで、診察では明らかな異常はないという方がいらっしゃいました。そこで診断学が生きてくるのですが、問診してみると、これは普通の頭痛と違うなと感じました。普段はCTを撮るような症状ではありませんでしたが、身体所見に全く異常はなくとも撮ってみることにしたんです。すると骨転移が数多く見つかったことがありあます。

こうした診療の技術が磨かれると、病の可能性を捉え適切な検査に結びつけることができます。不安だけの人ももちろんいるし、それならその不安がどこからきているのか、患者さんの生活背景まで探る。すると診察室の中で解消し、納得して帰ってもらえることもあります。総合診療医としてはそれも大事な役割ですね。

都市型総合診療医というポジションを生かす今の働き方は都市型の総合診療ということで、すごく恵まれています。多摩ファミリークリニックで診ている患者さんを「この検査はもうちょっと詳しい精査が必要だから」となれば、市立病院の総合診療科の自分宛てに紹介状を書いて、自分で診ることがあります。逆に多摩病院で診ている患者さんが訪問診療に移行するというときには、それをファミリークリニックの訪問診療へつなげたり。クリニックで経過が長くなって入院が必要だと判断した場合は、市立病院で入院管理をしたり。同じ診療圏で働いているので、すごくシームレスにでき、患者さんにとっての伴走者として寄り添うことができるんです。

一方で都市の課題としては、ドクターショッピングや医療モールとも言われるように、複数の科を1日コースで「今日はこの科に行って、その後この科に行ってきたんだ」とザバっと薬を持ってくる方もいるんですよ。これには多剤内服のリスクがあるので、本当に必要な薬はどれかアドバイスすることもあります。都市のいろんな先生がいる中で自分を選んで来てくれた患者さんに、ベストな医療を提供するのはやりがいがあります。

患者も診る、家族も診る、地域でささえる総合診療医は、年齢、疾患の幅が広いというのが強みなので、赤ちゃんもおじいちゃんも診るし、風邪から入院が必要な医療まで診ます。それを適切にプライマリ・ケアの段階で評価してつなげたり、逆に2次、3次医療から引き取ったり。家族全員とずっと継続性を持って関われるというのが醍醐味だと思うんですよね。

たとえば、ただの風邪で受診しているのに必要以上に心配し、もっと薬が欲しいという患者さんがいたとします。なんでそんなに心配してるのかと話を聞くと、「認知症のおばあちゃんを家で介護していて、小さな子どもも実はいるんです。自分がダウンしてこんな風に受診すると子どもを見るのが認知症のおばあちゃんだけになるから、なんとしても早く治さなきゃいけないんだ」と理由がわかったりします。ああって納得するわけですよね。

じゃあこの方に必要なのは、まずは風邪の治療プラス、認知症のサポートだと。受けられるサービスを見つけてサポートします。「子どもも次は一緒に受診していらっしゃいよ」と言ったりもします。

「なんかあったときにはあの先生のとこ行けば、教えてくれて、大事なときはちゃんと次のステップの専門医や機関を紹介してくれるんだ」って、そういう信頼関係があるといいですよね。で、家族をまたそれで紹介されたりして。いろんな問題に対応できる、きちんと診療のスキルを持って対応する、必要なときはちゃんと紹介する、そういう診療ができる総合診療医は、すごくやりがいのある楽しい仕事ですね。

若手医師へのメッセージ

実習で回った科でいろんなことを経験してみようと思うことが、きっと自分の将来につながるんじゃないかなと思います。総合診療医の先生のところに実習された方は、実際に患者さんに問診や診察をしたり、自分で治療方針考えてみる。この人の「家族図」書いてみようかなとか、背景ってどんなんだろうって考えてみる。そんな風にトライしてほしいです。自分にはまだできないと思のではなく、上の先生がいるんだから間違ってもいいんです。患者さんに害がない範囲ですけどもちろん。そこで、こういう返事が返ってきて、この所見全然分かんないよでもいいし。患者さん一人ひとりに向き合う経験をしていくだけでも、学生や研修医の先生は吸収できることいっぱいあると思うので。将来何科に進むにしてもトライしてほしいです。それと、どんな先生でも患者さんへの接し方や基本的な問診の仕方、基本的な診療をまずはしっかり身につけてほしいと思ってます。その中でいろんな年齢層の人たちを診たり、患者さんの背景や家族、地域を含めて診たりすることに興味があれば、ぜひ一緒に総合診療をやってほしいですね。

2010年武蔵野赤十字病院初期研修修了し、家庭医療学レジデンシー・東京(CFMD)で家庭医療を学んだ後、2014年より川崎市立多摩病院にて家庭医を対象とした小児科フェローとして勤務している。家族や地域の多様性の中で、プライマリ・ケアでよく出会う問題を診断スキルと家庭医の軸を持って診ることを大事にしている。