総合診療医という選択

総合診療医という選択

Career 総合診療医への道

Career 総合診療医への道

女性のワークスタイルレポート

結婚や出産、育児といったライフイベントは
女性が仕事を続けていく上で大きな転換期にもなりえます。
総合診療医として働く女性医師の先輩たちが、
そのイベントをどうとらえ、今のキャリアへとつなげてきたのか。
ここでは3人のワークスタイルをご紹介します。

CASE 01

与えられた機会はすべて
総合診療医としての
今の自分につながっている。

三澤 美和さん大阪医科大学附属病院 総合診療科 勤務

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滋賀医科大学を卒業後、長浜赤十字病院にて初期臨床研修医、長浜赤十字病院・弓削メディカルクリニックでの家庭医療後期研修プログラム中に第1子出産。約1年の育休を経て長浜赤十字病院糖尿病内分泌内科に復帰。2年後に第2子出産を出産し再び1年間の育休へ。長浜赤十字病院救急部と糖尿病内分泌内科の兼務で復帰。現在は大阪医科大学附属病院で総合診療科医長を務める。
※当時の滋賀医科大学総合診療部家庭医療後期研修プログラム

専業主婦は性格的にムリ(笑)。
子どもを出産しても働くつもりでした。

医師になった時から、いつかは母親になりたいと思っていましたし、それで仕事を辞める気は全然ありませんでした。私の場合は、後期研修中に第1子を出産して1年間の育休を取りました。復帰後は怒涛の日々が始まりましたね。保育園の引き取りのために17時には帰宅する必要がありましたし、子どもが高熱を出せば、朝、大阪に住む夫の実家まで高速を飛ばして預けてから、新幹線で長浜まで出勤したことも数知れず。それでも17時には帰宅できるように配慮いただけたことや、女性がバランスをとりながら働くことを「当然」として支えてくれた仲間がいたことで乗り越えることができました。製造業に勤める夫も、休みを組み合わせながら、サポートしてくれています。タイミング的にも初期研修後すぐの出産ではなく、後期研修で主治医として一人で責任を持って患者さんを診るところまで経験してからの産休だったことも、職場復帰がスムーズにできたポイントかもしれません。

育休を活用して資格にチャレンジ。
復帰後の配属が人生の思わぬ転機に。

職場復帰後に家庭医療専門医(総合診療医)の資格を無事に取得し、約3年間働いた後、第2子を妊娠し再び育休を取ることに。正直、産育休で医者としての勘がにぶるとか、技術が落ちる不安もありましたが、つわりもひどく、それどころじゃなかったですね。2回目の育休では、広く健康問題を扱う家庭医療の中でも特に深めて学びたいと思っていた糖尿病専門医の資格取得にもチャレンジ。家庭医(総合診療医)の視点を持った糖尿病のスペシャリストとして職場復帰することができました。ただ、2児を育てながらの当直勤務、土日勤務は難しく、上司と相談し昼間の救急部を担当することで調整をつけてもらうことに。また週1日は人間ドッグ業務も担当。予防から介入して指導する経験を積むことができました。復職してみると、患者さんから鍛えられるし、子育ての孤独感からも解放される喜びも大きかったですよ(笑)。とはいえ、内科を離れないと医師を続けられないのか、と悩んだりもしました。でも今思うと、当初の予定にはなかったにせよ地域救急の最前線に立つことができたことや人間ドッグの経験できたことが私の総合診療医としてのキャリアに幅をもたらしてくれたことは間違いありません。育児と現場のバランスをとるためにその調整を提案してくれた上司には心から感謝しています。

医学教育にも軸足をおいて、
プライマリ・ケアをもっと広げていきたい。

長浜赤十字病院の救急部は滋賀県湖北地域の三次救急の拠点。医学生や研修医も数多く受け入れる教育の場でもありました。在籍中にはFaculty Development(医学教育)のフェローコースに1年参加し、救急部の研修カリキュラムの立ち上げに向けて医学教育や組織マネジメントについて多くを学びました。その中で人を育てることの切さに気づき、総合診療の魅力をもっと学生や研修医、そして臓器専門医に伝えたいという想いから病院の異動を決意したんです。子どもが小学校に入る「小1の壁」のタイミングでしたし、夫の転勤もあり、夫の実家の近くへ、ということで今の職場に押しかけて異動しました。総合診療の世界では「親切なヤブ医者になるな」とよく言われます。総合診療を知って理解してくれる、興味をもってくれる医学生、研修医を増やすこと。さらに総合診療医を理解し、頼ってくれる臓器別専門医を増やすこと。今後は診療のかたわらで、そんなことにも力を注いでいきたいと思っています。私がここまで取り組めるのは研修中、仕事中、土日の講演や研修会の時に夫や夫の両親がバックアップしてくれているから。私のキャリアは家族に支えられてできていると思っています。

総合診療医を目指したきっかけは?

医学部5年生の時、臨床実習で弓削メディカルクリニックを見学する機会があり生涯のロールモデルである家庭医(総合診療医)の雨森先生に出会ったこと。

ズバリ総合診療医の魅力は?

どうやったらその人がその人らしく過ごせるかを考え、「普通の病気を普通にみる」ところ。

三澤さんのある1日

  • 3:30起床 メール確認、資料まとめ
  • 5:30朝食準備
  • 6:30朝食
  • 7:50子ども見送り&保育園へ
  • 8:30出勤 レジデントと病棟のレビュー
  • 9:00レジデントと病棟回診
  • 11:00レクチャー準備、web会議、書類仕事
  • 12:30レジデントたちとランチ
  • 13:00レジデント・研修医向けランチレクチャー
  • 14:00レジデントの外来レビュー
  • 15:30カンファレンス回診
  • 17:00退勤 子ども迎え
  • 18:00帰宅 夕食準備
  • 19:00夕食
  • 20:00子どもと入浴 翌日準備
  • 21:30子どもと就寝

CASE 02

一番は家庭。
それは私にとって
とても自然なスタンス。

菅長 麗依さん
亀田総合病院付属幕張クリニック
/亀田ファミリークリニック館山 勤務

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岡山大学医学部を卒業後、兵庫県立尼崎病院にて初期研修医、亀田総合病院総合診療・感染症科(現:総合内科)で後期研修医。神戸大学医学部附属病院感染症内科でのフェロー、亀田ファミリークリニック館山で家庭医療診療科フェローを経て、2015年からは家庭医診療科医長。2013年に結婚し、2016年6月から約10ヶ月の育休を取得。2017年4月から現在の職場(幕張)に転属。館山での家庭医診療も継続中。

医師を志した頃の思いを
呼び覚ました感染症研修。

後期研修を千葉県にある亀田総合病院で受けることに決めたのは、診断、マネジメントをしっかりできる医師になりたかったからでした。3年間、成人診療をメインに研修後、上司との縁で故郷の神戸に戻り感染症研修を受けることに。もともとジェネラル志向でしたので感染症という自分の強みができるのもいいなと思いました。感染症の研修中にHIV患者さんの外来診療を経験したのですが、その時、医学的側面だけでなくジェンダーの問題や家族も包括的にケアをするスタンスに触れ、医学部受験した当時の自分の理想の医師像に重なり総合診療医を目指そうと心に決めたんです。一方でパートナーが転勤になったとしてもあらゆる地域で臨機応変に対応できる柔軟性のある医師でありたいということも総合診療医を選んだ理由ですね。2年後に再び千葉に戻り総合診療医としてのキャリアをスタートさせました。

波が来れば、波に乗る。
あくまで自然体で働きたい。

もともと家族を大切にしながら働きたいという考えは変わっていませんが、出産前は完全に仕事中心でした。子どもが小さい間はもう少しライフにウェイトをおいてバランスをとりたいと考えているところです。幸いにも亀田ファミリークリニック館山は、職員の家族も大切にする風土が根付いているので、妊娠中や産後の勤務調整について理解があり本当に恵まれた職場です。産後は夫の職場に近づき、お互いの通勤時間を減らす目的で、2017年の春から、幕張のクリニックで内科医・健診医として復職しています。どんな状況に置かれても自分の良さを発揮できるようにと選んだ総合診療医の道でもありますので、新しい職場も自分の能力を試すいい機会と考え、楽しみたいです。

いまは家族優先で。
新しい環境で守備範囲を拡げたい。

以前、育休からの復職に不安を感じている女性医師に相談を受けたことがありました。「妊娠・出産・育児の経験は研修では学べない医師として素晴らしいものを学んでいるんだよ」という話をしたら、涙しながら前向きになってくれました。妊娠・出産・育児の経験は総合診療医にとって間違いなく“スペシャルな研修”です。そのことで悩む女性医師がいればキャリアの波もプライベートも楽しめるように応援していきたいと思っています。私自身、今後も継続的にワクチン啓発、ウィメンズヘルス、卒前教育などの活動にも携わりながら、当面は総合診療医として成長する機会を与えてくれている“育児生活”を堪能したいと考えています。とはいえ、妊娠前の忙しかった時期の「反動」でそう思っているだけかも知れませんが(笑)。自然体で余裕をもって。自分自身もハッピーで、患者さんやそのご家族、自分の家族や友人など身近な人たちの笑顔を見続けられる医師でありたいと思います。

専門を決めるのに重視したポイントは?

専門科や年齢を越えて患者さんを診ることができる守備範囲の広さ。病気だけを診るのではなく、予防や健康増進を考えたアクションができること。特に様々なライフステージを迎える女性の心身の変化に対応できる能力を身につけられること。

ズバリ総合診療医の魅力は?

自分の守備範囲を見極めつつ、「自分の専門ではないので」とは決して言わない姿勢。患者さんだけでなく、家族や友人・知人など大切な人たちの健康を守る手助けができること。

菅長さんのある1日

  • 6:30起床・朝食
  • 7:40子どもを保育園へ
  • 8:20出勤
  • 8:30診察、検診結果説明
  • 12:00昼休憩
  • 13:30外来診療
  • 16:30退勤
  • 17:00夕食準備
  • 17:40子どものお迎え
  • 18:00子供とお遊び
  • 19:00夕食
  • 20:00入浴
  • 20:45子どもの寝かしつけ
  • 21:00夫婦の時間、デスクワーク、離乳食作り、洗濯など
  • 23:30就寝

CASE 03

内地留学も海外短期留学も。
夫とじっくり話し合って、
一緒に実現させてきました。

本郷 舞依さん
みちのく総合診療医学センター
坂総合病院 総合診療科 勤務

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秋田大学医学部を卒業後、坂総合病院にて初期研修医の期間に入籍。みちのく家庭医療・総合診療後期研修医の間に結婚式を挙げ、第1子を出産。育休明けに家庭医療専門医(総合診療医)を取得。その後、健和会町上津役診療所(北九州)、福井大学医学部附属病院総合診療部を経て、2015年から現在の職場へ。第2子も出産し今に至る。2014年、2015年にトロント大学で開催されたINTAPTコースを受講。※家庭地域医療の権威であるヘレン・バティ教授が主催する世界的な医療指導者養成コース

育児の真っ最中に親元を離れて、
縁もゆかりもない九州の地へ。

子どもが2歳になったばかりの時。夫が外傷救急で有名な病院に内地留学したいということで、家族で北九州に行くことにしたんです。子どもはまだ目が離せない時期でしたが、夫の職場にある保育所に預けることができるということもあり、思い切って踏み出したのを覚えています。私はちょうど家庭医療専門医(総合診療医)の資格を取得したばかりのタイミングでしたね。診療所での研修経験が少なかったので、ちょうどいい機会だ!ということで診療所で働くことにしました。そこでは外来、訪問診療、デイケアのサポートを担当。近くに身内がいないので病棟を持つのは難しかったため、ちょうどいい形で働けたと思っています。私は昼の勤務、夫は通常勤務+当直。二人でスケジュールを調整しながら私たちなりのフォーメーションで上手に乗り切りました。

夫の関心と私の興味が
ピッタリ合って今度は福井へ。

約8ヶ月の北九州での内地留学のあとは、これまた縁もゆかりもない福井県へ。福井大学医学部附属病院の救急診療総合部には全国的にも先進的な「救急医療」と「総合診療」がコラボレーションした医療を進めており、夫婦ともにそこで経験を積みたいと意見が一致したからです。2つの科が連携するためにはどんな組織づくりが必要なのかといった組織マネジメントを学ぶ機会になりました。また、週1日はこれまで経験したことのなかった在宅療養専門の診療所で研修もでき、診療の幅を広げられたこともよかったです。さらに、在籍中にトロント大学で開かれた短期研修にも参加。家族3人で渡り、期間中、子どもは夫に見てもらってじっくり学びました。職場は総合診療チームと救急チームが昼夜をスムーズに引き継ぐ体制があったので、子育てをしながらでも安心して働くことができました。

家庭と仕事をインテグレート(統合)
できることが総合診療医の理想。

2人目を出産した時も辞めるという選択肢は自分の中になく、上司も「元気な赤ちゃん産んで戻っておいで」と温かく育休に送り出してくれたのがとても印象に残っています。診療面の不安より、子どもの発熱時の対応はできるのか、時間管理ができるのか、という不安のほうが大きかったですが、幸い復職後も育児時短制度、当直勤務の免除を活用して家庭ともインテグレート(統合)できていますね。近くに住む実家にも、時折頼っています。先輩の女性たちが勝ち取ってくれた制度にのることができて助かっています。2人目のほうが、1人目の時より、仕事と家庭のバランスが難しいですし、よりひっちゃかめっちゃかな毎日になります。けれど、育休をとってよかったなと思うことは、子どもを持ったお母さんがどんな心配をしているのかがリアルに想像できるようになったこと。より親身になって診療できるようになったことは総合診療医のキャリアとしてとても有意義なことだと思っています。子育てをしながらいつ勉強しているの?とよく聞かれますが、一つは日々の診療、そして研修医を指導しながら一緒に理解を深めて、あとは休日に研修に参加したりすることでしょうか。勉強しなければならないときは、それをどう実現できるか考え、夫や子どもと相談しています。家庭生活も子育てもキャリアのひとつ。家族とともに自分も成長できるよう、自分の考えはちゃんと家族に伝えるようにしています。

総合診療医を目指したきっかけは?

総合診療医という働き方との出会いは夫の助言から。どの専門科もしっくりこない中、なんでも相談できる存在になりたいと話したところそれならば、と教えてくれた。

これからの夢は?

理想はよろず相談所。検査結果で異常がなくても、患者さんが違和感を感じているなら寄り添い、路頭に迷う人を一人でもなくしたい。

本郷さんのある1日

  • 8:30出勤
  • 8:40当直申し送りのチェック
  • 9:00病棟対応
  • 10:00救急総合診療科合同病棟回診
  • 11:30地域医療実習の学生指導など
  • 12:30昼休憩
  • 14:00病棟対応やレクチャー資料作り
  • 17:00退勤
  • 17:20子どもの迎え
  • 18:00帰宅
  • 19:00夕食
  • 20:00入浴
  • 21:00寝かしつけ
  • 21:30メールチェックや調べもの
  • 23:00就寝