総合診療医に関する
よくある質問
総合診療医に関しては偏った情報や間違った思い込みにより、
正しく理解されていないケースが多々あります。
ここではよくある質問をご紹介します。
いまいち総合診療医の専門性が見えにくいです。
何の専門家なのですか?
専門性が見えにくいのは「スペシャリストでもあり、ジェネラリストでもある」からです。総合診療医は、患者さんの心身の健康面、家族関係、就労・経済状況などを多角的に診て、その人が望む暮らしを送れるように、あらゆる専門医や協力者と連携しその解決にあたります。その守備範囲の広さ、対応できるレベルの高さ、コーディネート能力の高さなどが、総合診療の強みといっていいでしょう。そのために複眼的な診断能力を徹底的に鍛えます。なかなか言葉だけではわかりにくいと思いますので、それを実際の診療の場面に当てはめた「例示」をご覧ください。
総合診療医は実際にどこまで
患者さんの治療に関わっているのですか?
「総合診療医=つなぎ役、仕分け役」というイメージを持っている方に時折出会います。
それは、「診断のプロ」という部分だけに注目しているからかもしれません。実際には、おおむね外来の9割の患者さんの治療に、主治医として継続的に関わっています。「common diseases」と言われるよくある疾患を中心に、急性期から終末期まで、内臓疾患から軽度の外傷疾患まで、年齢に関わりなく、多くの疾患や健康問題に対応できる基本的臨床能力を備えています。
ローテーション先の指導医から、
「何か“これだけは人に負けない”という特技を持って
いないと、将来困るのでは?」と言われたのですが…
医師に求められる能力は「場」によって異なります。大きな総合病院であれば「特技」をもった人がフルに活躍できる場も多いでしょう。一方、地域医療を支えている病院や診療所の現場を思い浮かべて下さい。「○○の疾患しか診ないが、その領域の手術なら誰にも負けない」という医師がいても、その専門領域を発揮できる場面はかなり限られたものになるでしょう。一方で「どの領域でもきちんと対応できて、手術が必要なら的確に専門医と連携ができる」という医者は、地域医療の現場で大きく活躍できるでしょう。医師が一人でカバーできる範囲は限られていますから、キャリア形成でウエイトを置いたところが違えば、活躍できる場も異なってきます。キャリアについて相談する時は、どの「場」をイメージして語っているか、それを認識しておくことが非常に大切です。
総合診療では、深い専門性は身につきますか?
総合診療は離島やへき地に一人で赴任しても、住民の健康問題の大部分に対応できる専門医とも言われます。よくある疾患に対して的確に対処することが「広く浅い」というイメージにつながっているかもしれません。しかし、よくある疾患といっても、解決策は同じではありません。また、どんな症状でも「専門外」といわず受けとめ、患者の生活背景まで深く洞察しながら対応を考える。必要であればそれぞれの専門医にしっかりつなぎ、その後もフォローするには、相当な専門性を要します。学び続けるための環境は整備されています。一緒に深めていきましょう。
総合診療医は「器用貧乏」ですか?
ジェネラリストは企業でも行政でも、器用貧乏と揶揄されがちです。ただ、総合診療医に関して言えば、求められる能力を発揮するには、器用貧乏では太刀打ちできません。あらゆる患者さんに対応できる力を「器用さ」というのであれば、相当器用です。さらに診断するだけではなく、治療にも深くコミットすることを考えると、むしろ「器用富豪」と言った方がいいかもしれません。一方で多くの疾患を一人で診る総合診療医は働き方の面でも器用です。大病院でも在宅医療でも、都市部でもへき地でも、どこでも活躍できます。
総合診療は、総合内科と何が違うんですか?
総合診療と総合内科はオーバーラップする部分は大きいのですが、あえて違うところを挙げるならば、総合内科はあくまでも「内科」の範疇にふくまれるものであるに対して、総合診療は、人々の健康をトータルにマネジメントする領域である、という考えができると思います。具体的に、総合診療に含まれるけれども総合内科に含まれないものとして、小児を含む全てのライフステージのケア、外科処置を含む治療などがあります。また、総合診療医には、多くの疾患の臨床的疾患の対応力を身につけるだけではなく、患者・家族の生活課題を理解し、それを念頭に置いた解決策を提案できるソーシャルワーク的能力のほか、予防や健康増進のための町ぐるみの働きかけ方(地域ケア)まで教育を受け、実践での活躍が期待されます。患者さんは家族や地域のなかで暮らしているため、生活環境の全てを視野に入れた治療と支援をします。
家族のことや地域のことまで、
医者の仕事なのですか?
総合診療医は、患者さんの自宅や職場、家族関係まで視野にいれて治療方針を立てます。なぜなら現実の暮らしの制約を無視してしまったら、治療の効果が十分に発揮されないだけではなく、再発を繰り返すことにもなるからです。総合診療医が治す対象は、疾患とその背景にある生活です。
小児科か救急科と総合診療で迷っています。
どう考えたらいいですか?
総合診療医のなかには、小児科や救急科で活躍している人もいるくらい、患者さんの年齢や病態に関わらず活躍することができる専門性があります。子どもを診ながら、親を診ることもありますし、慢性疾患の患者さんを急性期で適切に対処し、もとの暮らしに戻す必要は日常的にありますよね。「何科の医師になるか」ではなく、「どんな医師を目指したいのか」をイメージしてみて下さい。
医療資源が比較的豊富な都市部でも
総合診療医のニーズはありますか?
様々な医療機関にかかるからこそ、診療科のはしごや過剰検査、処方など不便を感じたり、不安を抱えている患者さんは地方ではなくむしろ都市部に多くいます。これから19番目の専門医として確立していくにあたり、大学に「総合診療」の医局や講座ができ、病院の「総合診療科」が増えていくのではないかという期待もあります。
総合診療医は、日本にどの程度
いるべきなのでしょうか?
1次、2次、3次医療ピラミッドが効率よく機能している欧米諸国では、医師の3割前後が「総合診療医」です。それを根拠に10万人規模で必要、という声もあれば、人口1,500人に1人程度は必要、として6万人規模という説もあります。少なくとも1970年代から日本でも必要性が議論されてきた総合診療医は、近い未来を見越してもまだまだ足りていない、という認識のもと、国の政策として養成が進んでいます。2017年時点で、当学会の専門医は約580名、認定医は5,500名となっており、全国の地域医療を支えています。
一つの専門領域でも大変なのに、全ての領域について
常に最新知識を持ち続けることができるのでしょうか?
確かに、総合診療医がカバーする全ての領域に関する知識をアップデートすることは大変です。ただ、頻度が低い疾患や高度な専門治療が必要な疾患は、適切な診断や初期対応を知っておけば十分対応できますし、最近では電子データベースが発達してきているので、必要な情報を効率的に収集できる環境も充実してきています。何より大切なことは、患者1人1人の診療で生じた疑問を疎かにせずに、きとんと調べる習慣を身につけることです。その習慣ができていれば、診療を続けるなかで獲得できる知識もどんどん増えていくでしょう。
専攻医課程(後期研修)の3年間で、多くの疾患を
一人で診られるほどに成長できるのですか?
成長できるための教育プログラムを設定しています。そのために統計的によくある疾患から順に対応力を身につけ、少しずつ診療範囲を広げていきます。よくある疾患ではなくても見逃してはいけない疾患も同時に経験していきます。教科書のみでは教えられないノウハウを、現場で教えることのできる指導医が揃っています。
結婚・出産というライフイベントは研修プログラムに
どの程度影響しますか? ライフイベントがあっても、
復帰しやすい専門領域なのでしょうか?
多くの研修施設ではチーム制で対応していることが多いので、時短やシフトの融通などはしやすいほうだと思います。プログラムをよく見極めて、充実した支援が受けられるプログラムを選んでください。その選択肢はたくさんあります。