総合診療医という選択

総合診療医という選択

Voice 総合診療医のリアル

患者とその家族からのメッセージ

山田 康介 医師加藤 日出美 さん

私たち夫婦の願いを
かなえるため人を診て、
自分を合せる先生がいた

患者家族

加藤 日出美

人を通して
病気を診てくれていると実感

主人は上行結腸がんでして、見つかった時にステージとしてはⅢaという状態でした。手術をし、その後こちらのほうに家を建て、かかる病院を変えてから再発がありました。それからは化学療法を受け、6カ月ぐらいした頃にはもう使える薬がないということで主治医から緩和ケアを勧められました。その時に在宅医療という方法を教えていただきました。

更別診療所に伺ったのは2014年の9月30日。日にちまでハッキリ覚えています。山田先生は初めてお目にかかった時から優しくって声が穏やかで、本当に私たち夫婦の気持ちが和むような感じがしました。患者である主人だけでなく、私のほうにも目を向けて話してくださり、少ない情報の中から何かをつかみ取ろうとしてくださっているのが、すごく分かったんです。帰るときに主人と「本当に良かったね、今までと全然違う、こんなお医者さまいらっしゃるんだね」と話したのを覚えています。

それまでは全然目も見てくれないような診察を多く経験してきました。病気だけを診ているっていう。主人の場合はおなかに癌がありましたので、そこだけをクローズアップして、そこだけしか診られていない感覚がありました。ですから山田先生にお会いして初めて、人として、人を通して病気を診ていただいていると実感できました。救われるような思いがしたのと、これから本当に願っている診察や治療、ケアを受けることができるのだなと安心しました。それが第一印象でした。

患者のために新たなスキルを
習得しようとしてくれた

病状が重くなるにつれて胆管ドレナージや十二指腸にステントを入れる手術を受けるため、帯広の病院へ入院することが多くなりました。この胆管ドレナージが大変なくせ者でして、詰まる状態が何度も繰り返され、その度にチューブ交換しに病院へ行かなくてはなりませんでした。私たちもかなり疲弊しました。主人はまだ車を運転できる状態で、私が運転ができないものですから、どうしても運転しなきゃしけないという気持ちもあったと思うんです。口には出さない人ですが、体がしんどいというのも伝わってきました。それでも交換しなければ生きていけませんので通いました。

せっかく在宅医療をうけていても、胆管ドレナージのチューブ交換がネックになっているのが、私たちの心にあって負担になっていたことを思ってくださったのでしょう。「チューブの交換方法を取得したいので、行って教えていただいていいでしょうか」と山田先生から帯広の病院へお電話があったようです。私も主人も、病院のスタッフもビックリしました。すごくありがたかったです。主人は涙をこらえた感じで。そこまで思ってくださる先生がかたわらにいるのはほんとに心強かったです。設備が必要だということで在宅でのチューブ交換はかなわなかったのですが、私たち夫婦のためにそこまでしてくださるお気持ちがすごくうれしく、感動しました。

日常の中で死んでいく
願いをかなえられる

クリスマスイブの日に帯広の病院から更別診療所へ転院し、翌25日には在宅に戻るための話し合いのため、先生、訪問看護師さん、薬剤師さんと看護師さん、ケアマネージャーさんに来ていただきました。年末29日にふたたび在宅医療が開始されました。それからは熱が出たり腹痛が起きたりする度に先生にお電話し、何度も来ていただいたり、訪問看護師さんとメールをやりとりをしたり。薬剤師さんにも1日に2回以上来ていただいていました。そんな風に支えられて過ごしました。

私は介護も看病も全く経験がなくて、やってみると失敗することも多いし。そういう私が最後まで看取ることができたのは、本当に先生と看護師さん、薬剤師さんに助けていただいたおかげです。私がぼんやり立っていても、どんどん引っ張ってくださるような感覚でした。

年明けの1月8日に余命のお話がありました。そこが一番つらかったかもしれません。ですが、いつもの山田先生のあの優しい、ほんとに思いやりのある言い回しで、少しずつ主人も私も受け入れていったような気がします。

在宅の看取りというのは幸せなことでした。私と主人の願いでした。一番自分たちが落ち着ける場所で、日常の中で死んでいくことが一番幸せなことなんじゃないかなというふうに二人とも考えておりましたので。主人としても幸せなことだったろうと感謝しております。

命を大切に生きた主人が
命の授業へ

主人が亡くなったしばらくして、命の授業と聞いたときに、正直初めは「どういうものなんだろう、自分自身が受けてみたいな」というふうに思ったんです。私たちが題材としてそんなお役に立てることがあるんだろうか、というふうに感じました。

ただ、主人は自然が好きで山が好きで動物が好きで昆虫が好きで、ほんとにどんな命も大切にする人でしたので、自分の命もすごく大切に生きていました。そういう生きざまが、何か人に感じさせるものがあったとしたら、それは私にとってすごくうれしいことだなというふうに思います。